アリア~Finally with you~
絶望から始まる物語


絵 : YOKO NAKAMURA
ストーリー : YOKO NAKAMURA
スペシャルサンクス : YOSIHIYUKI SAGA



プロローグ 『遠くない未来』



今日もベッドの上からガラス窓越しに夜空を見上げて、ため息をついた。

私の名前はアリア。生まれつき身体が弱く、普通の人の様にひとりで外を自由に出ることすらできない。だから世界最大のメタバース・ワールド(仮想空間世界)で画家とし活動している。

しかし、毎日々悲しくて、夜空を見上げるたびにお月様に祈りをささげていた。

「誰か違う世界にさらってくれないかしら」

そんな事を考えながら窓枠に身体を預けていると、うとうとしてしまい眠りに落ちていく。

気がつくと、少女の頃によくお父さんに連れてこられた砂丘で、倒れていた。

顔を上げ夜空を見上げると、二つの月が浮かんでいる。
ここはどこ?夢の中なの?
どうやら夢の世界に紛れ込んだようだ。
生ぬるい風が顔を撫ぜて、髪がなびく。
夢にしては、生々しすぎる。

砂丘を抜けて、森をさまよっていると一匹の黄金色に輝くゴールデン・フェネックと出会った。

「もうすぐあなたは、大切な人と出会うでしょう」と言って森の中に消えていった。
森から帰る途中で、満天の星空の下で青年と出会った。
「やあ!僕はステラといいます。僕もゴールデン・フェネックに導かれてきたんだ、君もかい?」青年は優しく微笑んで言った。
「ええ、私もよ。私はアリア、よろしくね」
その瞬間、私は彼に一目惚れして、顔を赤らめた。

朝日の眩しさで目覚めた。
夢を見ていたようだ。
私は、夢で見た青年の事を思い出しながら、身支度を整えて朝食の支度を始める。顔が自然にほころんでゆく。

青年の事が頭から離れない。でも彼におぼえがなかった。しかし、なぜか懐かしい印象が忘れられなかった。
ホログラフィックテレビが緊急報道番組を流し始めたので料理の手を止めた。

特に近年、毎年地球温暖化がひどくなり、まるで大自然が人類に復讐しているみたいな超異常気象や大地震が毎日、世界のどこかで起きている。

さらに経済的にも軍事的にも不安定で、人類は局地戦規模の戦争を何度も経験した。
そしてついに、世界大戦へと発展していった。いつ全面核戦争で人類が滅んでしまってもおかしくない、緊迫した日々が続いている。

だから私は、どんなに苦しくても平和な世界を思い、画家として『希望』を描き続けていくんだ。
夢で出会った青年と現実世界で出逢いたいという気持ちが、私の心に希望と勇気を与えてくれていた。

ホログラフィックディスプレイのボリュームバーをスライドさせてホロテレビに集中した。
AIアナウンサーの声が大きくなったが、よく聞き取れずにいると音声が途切れ、ホロテレビの画面が消えた。
そして全ての電力がブラックアウトした。
物凄い光が私の視界を奪い、思考が停止した。

地球を粉塵(ふんじん)が覆い、全てが蒸発した。
地球上の文明は、一瞬でほろんでしまった。
ついに人類は愚かしい事に自らの手で、地球を死の惑星に変えてしまったのだ。

私は意識が戻った。そばに誰かいる。
横に、夢の中で出会った青年が立っていた。
夢の続きなのだろうか?

ゴールデン・フェネックが、私と青年の前に現れると語りかけてきた。
「夢ではないのです。お二人の魂をお救いしました。
お二人には、過去の時間軸に飛んでいただきます」と言うと、ニヤリと微笑んだように見えた。
余りにも唐突だったので、私と青年は顔を見合わせて驚いた。

次の瞬間、二人の意識が過去の時間軸へと跳(と)んだ。




第一幕「魔鏡の世界」



時間を食べる硝子の魚と魂を繋ぐ硝子の魚が、空中を泳ぐ二次元の魔鏡の世界。

そんな世界に、ひとりの名前も記憶も忘れてしまった少女がいました。
少女は好きな人達の顔や記憶を思い出せないように、暗黒の女神から記憶を消されてしまったのでした。
少女の事は人々の記憶の中から葬られ、忘れ去られていきました。
魔鏡の世界で孤独の中、少女の魂は荒々しい獣人やゴーストに憎まれ、嫌われながらのたうち回り、消えそうになっていきました。

やがて、少女の魂には闇の翼が生えていきました。
もう何が光で、何が闇かさえわからなくなって黒猫の半獣人になっていきました。

それでも、わずかに残った生きたいと思う魂の叫びを抱え、樹海の丘の上にある家で独り暮らしていました。

あるとき、羽根のとても綺麗な小鳥が、少女の住む丘の家に現れました。
小鳥は魔鏡の前で「私って綺麗でしょ♪ラララ~」と唄いながら舞いました。
少女は「あなたはだあれ?」と訊き返すと、小鳥は「光の神にお仕えする天使です」
「えっ!ほんと?」
小鳥が「そうです。あなたの涙が、魔鏡の回りにきらきら輝いているわ。その涙の結晶が幸せを導くサンキャッチャーになるのです。
あなたの想いを魔鏡に映し出しなさい」と言いました。

少女は心の中で「このままだと、心がくだけ散ってしまいそうです。どうか助けてください!
幸せという想いを感じさせてください!」と念じました。

小鳥は「私がお仕えする神様は、この世界に生きるすべてのものの願いを叶える力を持っている存在です」というと飛び去って行きました。

時がどのぐらい過ぎたでしょうか。

ある晩、少女の夢の中で、一人の少年が樹海の森に迷い込んで来ました。
夢とわかっていたのですが、少女はその少年に恋心を抱きました。
初めての恋でした。
蒼(あお)い光のもとで少年は、魔鏡に映し出されるきらきら輝く沢山の光る石を見ました。
少女は「わたしの涙の結晶が光っている」と驚いた声で言いました。
「あっ!ぼくが探していた光だ。
僕にはあなたの中に光が見える。
この光る石を一粒下さい」というと、冷たい呪いの魔鏡に優しく触れました。

その手の温もりが少女の心に伝わってきたそのとき、少年の手の中で、彼の選んだ光る石が不思議な力で「愛の守護石」に変わりました。一瞬の輝きとともに、魔鏡に封じ込められたすべての命を解放したのです。
少女が目を覚まし、あたりを見回すと、割れた魔鏡が倒れていました。
少年は「ぼくも闘う、だから君もしっかり生きるんだ。いつかきっとまた逢えるから」と言い残して消えてしまいました。

その時、赤い小鳥がとまりました。
「私は人々に希望を与えるエスペランサと言います。
私がお仕えしている神の名は、光の神リヒト様です。
いつかリヒト様に逢えますように、そしてもう一人の魂のあなたに逢えますように」というと、エスペランサは飛びさって行きました。

しかし暗黒の力は強く、すぐに魔鏡は再生しました。少女は逃げ遅れてしまい、半獣人のまま光のない魔鏡の世界に生きることになってしまいました。

魔鏡の世界に蒼い月の明かりが射すとき、どこからともなくホワイト・フェネックが現れ、その跡には美しい光る石を落として行きました。

少女は、ホワイト・フェネックに「あなたはだあれ?」と尋ねました。
ホワイト・フェネックは「僕はステラだよ。よろしくね」と言いました。
少女は「この光る石をもらってもいいかしら?」とステラに尋ねました。ステラはうなずき「一緒に集めよう」と言いました。
二人は、その光る石を集めました。

蒼い月の光が射す夜は、不思議なステラの歌声が聞こえます。
その歌声に誘われてついて行くと、樹海の森の中に壊れたメリーゴーラウンドがありました。

ステラの歌声にあわせて、光が灯りメリーゴーラウンドは動き出し、幻想的な世界が広がります。

木馬の上で少女はステラを抱えて、光り輝くメリーゴーランドの世界に心を奪われました。
この楽しい時間がいつまでも続きますようにと願いました。
少女は一晩中、ステラや逃げ遅れた獣人やゴースト達と、ひと時の安らぎを木馬の上で噛みしめていました。
楽しい時間は瞬く間に過ぎてゆきました。

ある夜、少女はアゲハ蝶に導かれ、美しいティアという仙女に出会いました。
仙女ティアも、魔鏡の世界に囚われていたのです。
仙女ティアは、未来を見透せる能力を持っていました。

彼女は言いました。
「あなたは独りではない。
見えない存在の護り人がいるのです。
たとえ光がつかめなくても、最後まであなたを見捨てることのない、優しい愛に包まれているのです」そう伝えると、消えていきました。

その後、少女はステラが現れた跡に落としていく光る石を集めました。
これは赤い小鳥エスペランサが言っていたサンキャッチャーになる石であることに気づきました。

少女は石を繋ぎ、森中につるしました。
「いつかこの森も、皆の心も光に包まれますように」と願いを込めて。
自らも、胸元にサンキャッチャーのネックレスを作って身につけました。

ある日、どこからか一筋の光が射した瞬間、森中の様々な色の石が輝きはじめました。
少女の体は一瞬、強い光に包まれて、やがて森中が虹色の光の世界に包み込まれていきました。
少女は虹色の光のオーブに包まれ、オーブに映された光景をまのあたりにしました。

それは見たこともない綺麗なドレスを着たお姫様が、夢に出てきた初恋の少年と、真っ赤な薔薇に囲まれてハグをしている光景でした。

少女は「あなたは誰なの?わたしの愛しい人に何をするの!」と震えながら呟きました。
少女の心に生まれて初めて、怒りの感情が生まれました。
お姫様への嫉妬心から、悲しみに心が裂けてしまいそうになりました。

光のオーブから解き放たれた少女の目から、大きな一粒の涙がこぼれ落ちていきました。
そのとき、ステラがそれを不思議な力で魔法の石に変えました。
魔法の石は輝き出し、その光は少女とステラを包み込み、そして感じたのです。
「ステラだけが、わたしのかけがえのない存在なんだわ。ステラだけは絶対に誰にも渡さないわよ!」
少女は悲しみを振り払うように、ステラを抱えて一心不乱に踊り続けました。

やがてある夜から、魔法の石が輝くとき、たびたび小さな妖精が現れるようになりました。
少女が「あなたは誰?」と聞くと「あなたの心の憎しみ悲しみから生まれたの」と言ってすぐに黙り込みました。
「あなたの名前は?」と聞くと怒ってしまい「扱いにくい難しい子ね」と言うたびに、弱々しく消えてしまいそうになるので少女は慌てるのでした。
「あなたの心の傷、憎しみ・悲しみ・痛みの象徴が私なの。私の名前はアンジェ。傷つけないで、優しくして!
アンジェがいないと、あなたの心も消えてしまうのよ。アンジェを守って」と言うのです。

そんなアンジェを、少女は愛おしく感じ大切にしないといけないと思いました。
私がいないとアンジェも消えてしまう。
アンジェは私のすべて。

アンジェを愛することは自分を愛することだと気づかせてくれたのです。
満月の夜には妖精アンジェは、とても元気に飛び回るようになりました。しかし、少女は気づいていませんでした。
アンジェとの出会いで、自分の心の中にある嫉妬心から生まれた憎しみの感情が、さらにどす黒い何かに変わりはじめている事に。

少女の胸元のサンキャッチャーのネックレスのオーナメント・ストーンのクリスタルも光を失い、ただのブラックストーンに変わっていきました。




第二幕 「王女アリアの恋」



遥か昔、天の川銀河のさいはてにある太陽系第三の惑星・地球という星で......。

西の果ての大陸で[大帝国]が次々と隣国を攻めて征服を繰り返して、西の最果ての[海の国]まで勢力を伸ばしてきました。
その[海の国]は他国と塩やこしょう、海産物の交易をして栄えていました。
その豊富な交易権を狙って、ついに[大帝国]が攻め込んできました。
[海の国]も必死に抵抗しましたが、[大帝国]の軍勢にはかなわず、[海の国]の王様は追い詰められました。
[海の国]の王は、お妃と王子を森の隠れ砦に逃し[大帝国軍]と命を賭けて戦い最後まで抵抗しましたが全滅してしまいました......。
黒煙と真っ赤な炎の中で、独りの少年が立ちすくんでいました。今まで見たこともない獣が、優しいまなざしで、少年の傍らで見つめています。
黄金の毛並みをしたゴールデン・フェネックでした。
少年はフェネックに言いました。「僕の目の前で母上が、殺された。人間同士の醜(みにく)い『戦争』という理不尽で残酷なものに殺されたんだ」そこまで言うと少年は意識を失くして倒れてしまいました。

それからしばらくして[大帝国]の属州となったある島国の大国に女の子が生まれました。
王様と王妃は、天使の様な赤ん坊にアリアという名前をつけました。

アリア姫は愛情に恵まれて、純粋で天真爛漫な明るい少女に成長していきました。

13歳の誕生日を迎えた、ある日のこと。
アリアは、両親から遠縁の王家の一族が先の戦争で、唯一生き残った王子を預かることになったから、兄妹同様に仲良くしてあげなさいと言われました。
王子の名は『ステラ』と言いました。
アリアは、その気品のある少年に一目で好意をもちました。
アリアの飼っている愛犬のキャンディも、すぐにステラ王子になつきました。
アリア姫とステラ王子が、執事と一緒に薔薇園で薔薇の手入れのお手伝いをしていた時のことです。
ステラ王子の指に、薔薇のトゲが刺さってしまいました。
ステラ王子が涙をこらえていると、それに気づいたアリア姫は彼の指に刺さったトゲを抜き、毒が回らないように口で吸ってあげました。
「これ、あげるわ」と一本の薔薇の花を渡しました。

孤独なステラ王子の心を察してか、アリアは言いました。
「もう大丈夫。きっと幸せになれるわ、愛の薔薇の花がきっと導いてくれるから」と優しくほほえみ、ステラ王子をきゅっと抱き締めました。

ステラ王子はとても愛くるしいお姫様を大好きになりました。王子は慣れない環境や、両親を戦争で亡くした痛みに、心が折れそうになる日々が続いていたので、姫の存在が心の支えとなっていったのです。
お互いに最初は気恥ずかしさもあって、顔も見ることができなかった二人が、やがて本当の兄妹の様になっていきました。

ある日、ステラは夢を見ました。
光り輝く両親が目の前に浮かんで、微笑んでいました。
母上が言いました。
「ステラ、よく聞いてください。
あなたは、この星の大地の『地母神ガイア』に命を助けられたのです。
だからこの先、どんなに辛く苦しい運命があなたの前に立ちはだかっても、愛の心で立ち向かって乗り越えていくのです。
あなたは、特別な使命を果たさなければなりません。自分を信じて他者の為に進みなさい。
それが愛の力です。
私達はガイアと一体となって、いつもあなたを見守っています。
『黄金のフェネック』は、ガイアの化身です。
あなたにとって大切な存在と出会った時、あなたを愛し助けてくれるでしょう」と言うと消えていきました。

ステラは決意しました。
「父上・母上見ていてください。
僕は勇気をもって使命を果たします」と誓いました。

それから二年、平穏な月日が流れていきました。

アリアとステラも、幼年期を過ぎて、心身ともに成長していました。この頃、それぞれにやるべき事が増え、一緒にいられる時間も少なくなっていました。

アリアはステラに、明らかな恋心を抱いていることを自覚していました。
会えない日々が続くと、とてもせつない気持ちになります。

その年の瀬の聖なる夜、行事やパーティの終わった後。ステラと二人きり王宮内のテラスで、満天の星々が広がる夜空を見上げていました。

アリアは、ステラの為に丹精込めて編んだマフラーをプレゼントしました。
「わたしが編んだの」照れくさそうにうつむいているアリアを見て、ステラはすごく嬉しくて涙を浮かべました。
「ありがとう、アリア!大切に使うね」と言い「これ、ぼくから」と可愛い子グマのぬいぐるみを、差し出しました。

アリアは「まあ!なんて可愛らしいのかしら!」と大喜びしました。
「ずっと、仲良くしてね」とアリアは、子グマのぬいぐるみにキスをして「ステラ!ありがとうね」とステラのほっぺたにキスをしました。
ステラは、顔を真っ赤にして「ぼくはアリアのことが」と言いかけました。

二人は、お互いの目と目を見つめて、しばしの沈黙の後、ステラは意を決して言いました「好きです」
「わたしも」とアリアもこたえました。
その時、二人の想いに応えるように夜空の星々の輝きが激しく増し、神秘的な光景が広がりました。
二人にとって、一生忘れられない聖なる夜となりました。

年が明け、しばらくたったある初夏の午後のことでした。
王宮の前にある、芝の丘に一本の大きな木がありました。
たいへん立派な木で、昔から天の精霊の不思議な力が宿っていると云われ、いつの日からか「精霊樹」と呼ばれていました。

その精霊樹の前で、久しぶりに二人で、かくれんぼをしていた時のこと。
アリアが、かくれているステラをさがす番になって、精霊樹に体を押し付けて目を隠していました。
アリアは100数えて、目を離して王子を探しましたが見つかりません。
何度も大きな声で叫んでも返事がなく、夕暮れてきたので王宮に戻って、執事にステラ王子がいなくなってしまったと泣きながら「大丈夫でしょ? 絶対見つかるでしょ?」と言いました。
執事は、慌てて衛兵(このえへい)達を呼んで、広い宮殿や庭園や王宮敷地内外を問わず探させましたが、見つかりませんでした。
捜索(そうさく)は国中に及びましたが、ステラ王子は見つかりませんでした。
アリアは、悲しくて毎日泣き続けました。キャンディも悲しいのか、泣いているアリアに寄り添っていました。
ひと月たっても、ステラ王子は見つかりません。
それどころか、両親や執事も誰一人、ステラ王子の事を覚えている人がいなくなっていったのです。
更に、やがてアリア王女以外の人たちが、一人また一人と、この世界から消えてゆきました。




第三幕 「光の神リヒト」



アリアは毎日、天に向かって「ふたたび、ステラにあえますように」と祈り続けました。
ある晩、アリアはとても不思議な夢を見ました。
それはアリアが夜空を見上げて、王子への想いを祈り歌っている夢でした。
[あなたに輝く星が見えますか?
私の心の中にあるあなたを想う輝く星が。
わたしの心の光に気づいて笑顔で抱きしめて!
宙(ソラ)の海を三日月の舟に乗って
わたしはあなたのもとへ行きます]

翌朝、アリアの部屋の窓辺に、赤い鳥がとまりました。
キャンディが寝ているアリアの顔をなめて起こしました。
「私は人々に希望を与える神に仕えるエスペランサと言います。
神の名は、光の神リヒト様です。
アリア、リヒト様があなたに会いたいと言われています。精霊樹のところで、待っています」と言って飛び去って行きました。
アリアは「わたしの祈りが天に通じたのだわ」と、あわてて精霊樹のある芝の丘にむかいました。

アリアとキャンディは息を切らせて、芝の丘の精霊樹に行くと、さっきの赤い鳥が精霊樹の枝にとまりました。その背後に、光の神リヒト様が姿を現わされてアリアに語りかけました。

光り輝く鳥の姿をした優しい笑顔の神様が話されました。
「今、この広大な宇宙が、分裂し始めています。
その分裂した宇宙の一部分が、時の狭間(はざま)の裂け目に落ちてしまっているのです。
そして、私はエスペランサに裂け目の先にある暗黒世界に、分裂を止める為に行ってもらったのですが、止めることができませんでした。
だから、アリア。
私達の代わりに、その暗黒世界に行って、分裂を食い止めてもらいたいのです」と言われました。
その時、空間が歪んで、不思議なことに歳老いた老婆が精霊樹の前に立って、赤い鳥のエスペランサと向かい合っている光景が目の前に映し出しされました。

リヒト様は続けて言われました。
「この老婆に見える女性は暗黒のガイア神に生命エネルギーを吸いとられたもうひとりのあなた自身の姿なのです。
彼女は気の遠くなる時間、この魔鏡の世界に囚(とら)われていると思い込まされてます。
そして、あなたの探している少年もまた、魔鏡の世界にホワイト・フェネックの姿になって囚われているのです。
このまま分裂が進めば、この地球はおろか、我々を含めた宇宙全体が消滅してしまう危険な事態がせまっています。
月の意識体ティアも、この魔鏡に囚われてしまい、このままでは月も制御不能になって、公転軌道から外れて地球に衝突して消滅してしまうでしょう。
彼らを救い、この宇宙の分裂を止めることができるのは、アリア、あなただけなのです」と言われました。

アリアは、驚いて言葉が出ませんでした。
今、目の前で起こっている事も、夢か幻ではないかと疑って、ほっぺたをつねってみました「いた~い。夢じゃないのね」
リヒト様が微笑んで言いました。
「夢や幻ではありません。私は、太陽に宿る魂の存在で、光を司(つかさど)る意識体です。でも私は、エスペランサや人間が思うような万能の神ではないのです。

我々意識体は、この数多(あまた)ある銀河の根源の大いなる宇宙の中心といわれるブラフマン『始まりと終わりの存在』の一部なのです。
ですが、宇宙を分裂させている背後に、我々ポジティヴ(陽)・ワールド(世界)とは正反対のネガティヴ(陰)・ワールドの暗黒神ガイアが、糸をひいているのです。

我々とは反対の属性を持つネガティヴ・ガイアには手出しができないのです。

人として生まれし、この宇宙の『守護・地母神ガイア』の娘であるアリア。
あなたに、この宇宙を救ってほしいのです。
これを持って行って下さい。

これは、光のエネルギーが、詰まった光の卵です。
きっと、いざという時に力になってくれると思いますから」と言われ、美しい輝きを放つ卵が入った透明の小箱をアリアに渡されました。

アリアは、リヒト様の言われた事の半分も理解出ませんでしたが「わかりました。きっとこの世界を元に戻してみせます。で、この光の卵は、どうやって使うのですか?」と、わかったような事を言っている自分に驚きつつ尋ね返しました。

リヒト様が言われました。
「アリアの真実の想いを口にした時に、自然にある呪文がうかぶでしょう。その言葉を天に向かって叫びなさい。その言葉が鍵となって、光の卵に閉じ込められたエネルギーが解放されます。その時、奇跡が起こるでしょう。
どうか頼みましたよ。アリア!迎えは、明後日の皆既月蝕の夜にやってきます」と言われると消えていかれました。

アリアは「わたしが宇宙の守護神の娘?わたしが宇宙を救う?
そんな無茶苦茶な事言われても困っちゃう~!
いや、わたしは、あの愛しきステラを救い、自分を救いに行くのよ!」と自分に言いきかせるようにつぶやきました。

そして、アリアが王宮に戻る途中「助けてくれ~」という弱々しいかすかな叫び声が、聞こえてきました。
「え、どこ?」と辺りを見回しましたが、それらしき影もありません。

キャンディが、何か見つけたのか、ずいぶん先で吠えています。
アリアが急いでキャンディのところへ行くと「下だよ!下!」とふたたび、声が足元から聞こえてきました。

アリアはモグラの掘った穴に、トカゲさんを見つけました。
「何をしてるの?」とアリアが尋ねました。
トカゲは「見てわからないの?穴に落ちて困ってるんだよ!」
「そんなに、えらそうに言うなら、このまま行ってしまおうかしら!」とアリアは、少しトカゲさんをからかって言いました。

トカゲは慌てて
「そんなこと言わないで、どうか助けてちょうだい!
さっきの光の意識体リヒトとの話、聞こえたんだけどさ~。オイラは、こう見えても、光の意識体リヒトと対(つい)をなす闇の意識体ドゥンケルハイトの息子なんだ。
オヤジの命令で、この地球という星の地母神ガイアの娘を助けるように言われて、闇の卵でここまで来たんだ。
闇の卵からでた時、人間だと思って、この世界の生命体の姿をコピーしたらこのざまで。
なんでもお手伝いしますから、どうかお助けを!」
トカゲは、まくしたててアリアに頼みました。

「よくしゃべるトカゲさんね。わたしはアリアよ。よろしくね。あなたは、闇の意識体の息子さんって、つまり、あなたは闇の王子様なの~?」とビックリしながら、トカゲさんを穴から出してあげました。

闇の意識体ドゥンケルハイトの息子と名乗るトカゲは「ありがとう」と何度もアリアにお礼を言いました。

アリアはトカゲの姿をした闇の王子様を、じーっと見つめて観察しました。
トカゲさんの背中に、生まれつきアリアの左の頰にある星型の痣(あざ)によく似たウロコがあるのを見つけて、直感でトカゲさんは嘘を言っていないと信じました。
「あなたのお名前は?」と聞きました。
「オイラには、まだ名前がないんだ」
アリアは「じゃあ、わたしがつけてあげるわ。
名無しの闇の王子様だから、ゼロってどう?」と言うと「ゼロか~!かっこいいひびきだな~。気に入ったよ」とトカゲは感動している様子でした。
「アリア!このゼロ様がついているから、このミッションは成功間違い無しだぜ!」と調子のいいことをいいます。アリアは、久しぶりに笑いころげ、ゼロとの出会いに感謝しました。




第四幕「暗黒の宇宙(ソラ)へ」



それから三日後の皆既月蝕の晩、アリアはとても悲しい夢を見ました。
分裂したもう一人の自分の『魔鏡に囚われた少女』の身におこった切ない夢でした。

眠るまいと頑張って起きていたのですが、いつのまにか眠ってしまったようです。
ハッと、目を覚ましたアリアは涙を流していました。
その涙の粒が、アリアの周りに浮き上がり輝きだして、お魚さんに変わりました。
アリアは、これは夢の続きかしら?とほっぺたをつねってみました。
「いた~い!夢じゃないのね」
お魚さんが、空中に浮いて泳いでいます。
よく見るとキラキラと輝いていて、硝子でできたお魚さんの様でした。
硝子のお魚さんはアリアを誘うような飛び方をして、部屋の外へ出て行こうとしています。

アリアは、横で寝ているゼロを起こして、胸のポケットに入るようにうながしました。アリアは、キャンディがぐっすり眠っているので連れて行くのをあきらめて、慌てて部屋から飛び出して硝子のお魚さんを追いかけていきました。
音を立てないように、そっと硝子のお魚さんについていきました。

広い宮殿の地下にある、アリアも入った事のない物置部屋の前にやって来ました。
鍵のかかっている筈のドアが勝手に開いて、中に入って行きました。
アリアも、びくびく中に入っていくと、暗がりの部屋のランタンの火が自然に灯りました。

やはり、夢かしら?と再び、ほっぺたをつねってみました。
「痛い、いた~い!夢じゃないのね」
ゼロも頷(うなず)き「夢じゃないのね~」とアリアの真似をしています。

硝子のお魚さんは、古い鏡台の前で止まり、覗くようにというような動きをしました。
アリアは、そっと鏡掛けをあげて、鏡を覗き込みました。
すると、硝子のお魚さんは、ドボン!と音を立てて鏡の中に飛び込んでいきました。
アリアは、不思議な事の連続で目を丸くして驚いていると、今度は煙の様な雲が鏡の中からモクモクと湧き出してきます。
アリアとゼロはあっと言う間に、煙の様な雲に包まれて鏡の中に引きずり込まれてしまいました。

後から、アリアをさがして追いかけてきたキャンディは間に合わなかったのです。
鏡の中から「キャンディ、ステラを連れて必ず戻ってくるから、いい子にしててね」とアリアの声が響いてきました。
キャンディは悲しそうに鏡台の前で、いつまでも吠え続けていました。

鏡の中には、広大な宇宙が広がっていました。
宇宙には、三日月が浮かんでいます。
いや、それは夢に出てきた三日月の舟によく似ている見た事もない宇宙船でした。
しかも、アリア自身も宇宙空間に浮かんでいます。

「アリア様、わたしに乗って下さい」と宇宙船から声がしてきました。
アリアは、言われるとおり近くに行くと自動的にドアが開きました。
中に入ると「前に来てください」とういう声が聞こえました。
船の一番前に行くと、大きな座席があり「座ってください」と言われました。
どうやら、船自身がしゃべっているようです。
すると、アリアの体に合わせて、包み込む様に座席の形が変化していきました。
船が「発進します」というと、宇宙を進んでいきます。
アリアの目の前に、透明なガラスの様な窓があり、星々の光がラインの様に流れていきます。
それは言葉であらわせないほど、美しい光景でした。

アリアは「お船さん、あなたは、さっきの硝子のお魚さんよね。お名前はあるの?」と尋ねると船が答えました。
「はい。ですが、あの姿もかりそめのものです。
わたしは、本当は地球の衛星である月の意識体ティア様にお仕えするエネルギー体です。
特定の名前はございません。ですが、アリア様がお望みなら、お好きな呼び名をおつけ下さい」
アリアは少し考えて「やっぱり、キラキラ光っていた硝子のお魚さんだったのね。お月様の精霊なんだ。
形も三日月みたいだから、月の光のムーンライトというのは、どうかしら?」

船は「素敵な名前ですね。たいへん気に入りました。
ありがとうございます。
以降は、ムーンライトとお呼び下さい」

アリアは更に、ムーンライトはどこに向かっているの?と尋ねようとしましたが、難しい答えが返ってきそうな気がしたのでやめました。
ただ、どうしても聞いておきたい事だけ尋ねました。
「ムーンライトさん。わたしは、何者なの?
それと、これが一番肝心!ステラ王子は無事なの?簡単に教えてね」

ムーンライトは「最初のご質問ですが、アリア様は本来、地球の大地の意識体ガイア様の姫君だからです。

意識体とは、高次元のエネルギー体なのですが、難しく感じられるなら、人間世界で言う所の〔魂〕と言ってもいいと思われます。

そして今世で、地球の魂であるガイア様の娘として再転生なさる筈だったのです。しかし、暗黒のガイア神の反乱で、人間の魂と融合なさった状態で、お誕生なさったのです。
ですから、今のアリア様は肉体を持たない高次元のエネルギー体であり、魂の存在なのです。
アリア様の三次元世界でのお身体は、あなた様のエネルギーコア、いや、又、難しく言ってしまい失礼致しました。
私には、人間的な感情というものがありませんので。本当に、人間の言葉は難しいですね」というと、ムーンライトは、しばらく考えているのか黙ってしまいました。
アリアは「大丈夫よ、ムーンライト。わたしが、知識が足りないのだから。思うように伝えてくれればいいの」とムーンライトを優しくフォローして言いました。

ムーンライトは、再び説明し出しました。
「アリア様に気をつかわせて申し訳ありません。
なるべく簡単に説明させていただきます。

アリア様のお体は、あなた様の魂の内側に折りたたまれた状態でしまわれていますので、ご安心ください。
アリア様は、人間という物質的な固定観念に、長い間とらわれられておられたので、とても信じられない事かもしれませんが、それが真実なのです」

アリアには、やはり難しく感じましが
「要は、肉体から離れた魂の存在になったという事ね。ゼロも同じなのね?」
ムーンライトは「その通りかと思われます。
二つ目のステラ王子のご質問ですが、ご無事であります。ですが、その先はご自身でお確かめください」と説明してくれました。

ムーンライトは「では、目的の太古の暗黒宇宙の始まりにできた裂け目に向かって、発進いたします。少々揺れますが、しばらくの間ですので、我慢なさってください」と言うと、ムーンライトから見える前方の景色が、あらゆる色を混ぜ合わせた様な星々がきらめく美しい光景から、真っ暗闇の景色にかわっていきました。
ムーンライトは、アリアたちを乗せて暗黒の宇宙へ向かって、猛スピードで駆け抜けて行ったのでした。




第五幕 「二人のアリア」



ムーンライトが、次元の裂け目を通り抜け、暗黒の宇宙に入った時、太陽の光がない事と海がない以外は、地球とそっくりの惑星が見えて来ました。
分裂した地球でした。

その地球のアリアの王国内の砂漠化した丘の精霊樹のそばに、ムーンライトは着陸しました。
アリアが、外に出て薄暗い闇の宇宙を見上げると、内部から発光していると思われる蒼(あお)い月が浮かんでいました。

ムーンライトが、宇宙船から元の硝子の魚に戻った時、二匹に分裂しました。
二匹は、つがいで合体していたのでした。

アリアは「あなた達の名前はあるの?」と二人に聞きました。
青い硝子のお魚さんが「名前はありませんが、わたしは時間を操ることができます」と言いました。
アリアは「じゃあ『ムーンタイム』ってどう?」と聞きました。
青いお魚さんが「素敵ですね」と体をくねらせて喜んでいます。
ピンクのお魚さんが「わたしは、魂を繋ぐことができます」と言うので、アリアは「あなたは『ソウルレディ』ってどうかしらと名づけました。

ゼロが「アリアは、名前をつけるのホント好きだね!」と笑いました。

ソウルレディが言いました。
「アリア様の分身の少女は、自分が暗黒の女王だと思っています。
そして、アリア様をもう一人の自分だと思っていませんので、うまく説得なさってください。胸元には、幸福を呼ぶと言われているサンキャッチャーというクリスタルを繋いで作られたネックレスをつけています。
そのクリスタルは今は光を失い、邪悪なネガティヴ(陰)の『ガイア神』が宿っていますので、お気をつけください。
そして、ネガティヴ・ガイアを浄化しなくては、この宇宙は分裂し消滅してしまうでしょう」

ムーンタイムが言いました。
「もう次元の裂け目が閉じるまで、あまり時間がありません」
この世界の全生命体の分裂した魂は、樹海の魔鏡に吸い込まれているとソウルレディは言います。

王宮の先に、人々が暮していた街が広がっています。
さらに、その先に広大な樹海が広がっています。

「魔鏡の場所はわかっています。アリア様とゼロ様を樹海にある魔鏡の側に転送します」とムーンタイムが言うと、アリアとゼロは、あっと言う間に魔鏡の前に立っていました。魔鏡の前に、精霊樹そっくりな大きな木がありました。
「ここにも、精霊樹があったなんて!」アリアは神聖な気を感じて言いました。

その時、大きな魔鏡の中から人の声が聴こえてきたのです。
「ようこそ、女王様!」
アリアが魔鏡に向かい合ったとき、魔鏡に黒衣を着た少女が写っていました。

ソウルレディが言ったとおり、その少女は胸元に黒ずんだサンキャッチャーといわれるネックレスをつけていました。
そこに写っている少女は、少し髪型や衣服は違えども紛れもないアリア自身でした。

リヒト様やムーンライト達から経緯(いきさつ)を聞き、自分でも夢で見たとおりの少女が、アリアをにらみつけていました。
闇の少女が言いました「あなたは、わたしを、何百年もこんな無限地獄に閉じ込めた張本人。さらに、わたしの初恋の人を奪ったお姫様でしょ」
アリアは、言葉が出ませんでした。
目の前にいる少女の、アリアを憎む感情が雪崩(なだれ)のようにアリアの心に流れ込んできたからです。

さらに、闇の少女はアリアをなじります。
「自分はヌクヌクと生きて、よく私の前にこれたわね。
あなたのおかげで私は誰も信じる事が出来なくなったのよ。
そして私の魂の翼は、あなたへの憎しみで、どす黒く染まっていったのよ!
今では私自身が、この暗黒世界を支配する闇そのもの。
闇の世界に君臨する老獪(ろうかい) な暗黒の女王よ!
あなたは、両親に愛され執事や召使いに、かしずかれ、さぞや素敵な人生だったでしょうね。
幼い時から、ゴーストや獣人に怯えて、ひもじい思いをしてきた私の気持ちなんか、あなたには分からないでしょうけど。でもね!それも、今日でお終い。
あなたの魂のエネルギーを全て吸い取らせてもらって、私はあなたになるのよ」と言い放ちました。

アリアは静かに言いました。
「そうね。それができればそれでも、わたしはかまわないわ」

暗黒女王アリアは冷笑し、言いました。
「どういう意味?もう、諦めるの!なんて、弱い女王様だこと!」

アリアは尋ねました。
「ねえ、一つ聞いていいかしら?あなたには、どう見えてるの?わたしのことが?」

暗黒女王アリアは「あなたは、女王として何一つ苦労知らずに生きてきた年老いた老婆よ。
それが幸せだと信じて疑わない愚かな老いた女王、それがあなたよ!」と吐き捨てる様に言いました。

「そうなの。好きに思えばいいわ。
誰に何を見せられて、言い含められたか知らないけれど。
あなたに、わたしの魂のエネルギーを全部あげてもいいわ。でも、その前に、真実を教えてあげる」とアリアが言いました。

暗黒女王アリアは少し動揺して「真実?一体なんの事を言っているの?」
アリアは毅然(きぜん)とした態度で、静かに言いました。
「あなたは、もう一人のわたしなのよ。歳は15歳。年老いた老婆なんかじゃないのよ。
あなたは、幻覚を見せられ続けてきたの!さぞ、辛かったでしょう」

暗黒女王アリアは動揺を隠せない様子でうろたえました。「そんな馬鹿なことある筈ないわ。わたしが、あなただなんて!」
「仕方ないわね~これが証拠よ!」と言うと、アリアは、自分の頬を、おもいっきりつねりました。
すると、魔鏡の中の少女が「いた~い!」とアリアがつねった頬を抑えて悲鳴をあげました。
「今度は、反対側ね」とアリアが再び、反対の頬をつねりました。

アリアがもう一度頬をつねろうとすると、暗黒女王アリアが「やめて~!降参よ」とうなだれて言いました。
アリアは「どう分かった?あなたは、わたしの分身なのよ。ひどい事してごめんね。もう一人のわたし~アリア!」と暗黒女王アリアをさとすように謝りました。

暗黒女王と名乗るもうひとりのアリアは、突きつけられた現実に戸惑いながら言いました。
「私は、もう、どうすればいいのか分からないわ~」

「どうも、しなくていいのよ。今すぐに、あなたを楽にしてあげるわね」と言うと、アリアは、ソウルレディを呼びました。

アリアは「レディ?わたしと彼女の魂を繋いで欲しいの。
できるかしら?」とソウルレディに尋ねました
「私は、魂と魂を繋ぐ精霊です。もちろんできますとも」と言うと、アリアの魂に宿り、魔鏡の中のもう一人のアリアの魂に向かって、光の糸をはりました。
その瞬間、魔鏡は、粉々になって、二人を包みこむ様にキラキラ光る大きな繭になっていきました。

繭に包まれた二人のアリアは、向かいあいます。
アリアが言いました。
「あなたの事は、全て夢で見たの。
ステラと月の女神ティア様は、今どこにいるの?」
もう一人のアリアが答えました。
「二人は、あの蒼(あお)い月の中にいるわ」
「分かったわ!ゼロ出番よ。
二人が囚われているあの月を壊したくないから、あなたの闇のエネルギーで覆って守ってくれる!お願いね」
「わかったぜ!」と言うとゼロは、ムーンタイムを呼び瞬間移動で、蒼い月のそばに行き闇のエネルギーで月を覆いつくしました。

アリアは、そっとポケットからリヒト様からいただいた透明の小箱を開けて、輝く光の卵を取り出して、もう一人のアリアに言いました。
「わたしの愛する王子の名前はステラ!
そう。あのホワイトフェネックのステラよ。あなたの想い人は、ステラなのよ。この光の卵を一緒にもって!そして、愛しい人への気持ちを、一緒に歌いましょう」

二人のアリアは、しっかりと手をつないで、想いを唱いあげました。

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「光の扉 魂を繋ぐ硝子の魚」
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蒼い月の下に 眠むるとき
樹海の中で 夢をみる

壊れてしまった あなたの心
壊わさせない わたしの心
愛の宿る 魂は決して壊れない
通い合うことは ないのかしら
わたしは あなた
ひとりの わたしなのに

でも ずっと守っていくわ
でも ずっと抱きしめているわ
だって あなたは わたしだから
とっても 愛おしくて
とっても 大切で
こんなにも 愛している人よ

愛しい あなたには
伝わらないの かしら

月の碧く 美しい優しい光が射す時
キラキラ輝く 硝子の魚が
光の扉が開き 二人の魂を繋ぐ

魂を繋ぐ 硝子の魚よ
今二人の魂を 繋いでおくれ

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その時、ネガティヴ(陰)の暗黒神ガイアが、「やめてー」と叫びました。
そして、ポジティヴ(陽)の魂へと浄化され、アリアの魂と合体していきました。
サンキャッチャーのクリスタルも元の輝きを取り戻していきます。

そして、魔鏡も粉々に割れて倒れました。
その瞬間、アリアのサンキャッチャーのクリスタルから虹色の閃光が走って天を貫くように、分裂した地球を包み込み、二つの宇宙が重なっていきました。
ほんの一瞬の時間差で、太古の暗黒宇宙の裂け目が閉じていきました。

気ずくとアリアは、精霊樹の前に立っていました。
光をまとった少女は、一人の美しい女性になって真紅のドレスを着て、首には光輝くクリスタル・サンキャッチャーのネックレスをしていました。
二人のアリアの魂が結びつき、時を超え戻ってきたのです。
再び、アリアは独唱しました。

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「愛の絆」
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わたしの 生きる中で
輝ける時が あるのなら
その美しい光の 瞬間を
あなたに 見ていてほしい

あなたが 生きる中で
輝ける時が あるのなら
その華麗な光の 瞬間を
わたしは 見ていたい

だれかの たいせつな魂の
存在で あり続けたい
いえ あなたの
たいせつな魂の存在で
あり続けたい

わたしの 瞳は
あなたを 見つめているわ
あなたの 瞳も
わたしを 信じて見つめていて

この宇宙(ソラ)が 消える前に
わたし達は生きる意味を 感じたい

わたしが 消える前に
あなたが 消える前に
生きる意味を 感じたい

交わり 巡り巡る 魂の光
愛の光は なんども
何度も めぐりあう

それが 魂の繋がり
それが 愛の絆
138億光年の愛の絆

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美しく成長したアリアの背中には、金色(こんじき)に輝く翼が生えています。

次の瞬間。
アリアは宙を舞い、青い月から解き放たれたステラを優しく受けとめました。
アリアは、王宮の広間に降り立ちました。

輝く青年の姿となったステラの右腕にはトカゲの紋章が刻まれていました。
アリアは「お帰りなさい」とステラの手をしっかり握りしめました。
「ただいま」と大人っぽくなったステラが涙ぐみながら応えました。

ステラの目を見つめて、アリアは
「最後にあなたと二人で、全ての命を元にもどさなくちゃね」というと
「アリアと一緒なら、どんな事でも大丈夫」とステラも頷きます。

「オイラもな」とゼロの声でステラが言いました。
ゼロは、ステラを助ける為に彼と融合したのです。
アリアが「あなたもいたの~」と冗談っぽく言うと「そりゃないぜ~」とステラの姿のゼロが、泣きまねをしてうなだれました。

アリアが「あ、ティア様はどこ?」とステラの姿のゼロに尋ねると、ゼロは天を指して「月の意識体に戻って、俺たちを見守ってくれてるぜ!」と言いました。
アリアは嬉しくて「ゼロ!ステラとティア様を守ってくれて、本当にありがとうね」と感謝しました。
ゼロは「よせやい、照れるじゃね~か」と頭をかきながら、照れ笑いを浮かべました。

アリアは「本当に、これが最後の別れになっても?」とステラに尋ねると、ステラは満面の笑みで「大丈夫、何があっても永遠に一緒さ」と答えました。
アリアは「わかったわ」と覚悟を決めました。

二人は『光の卵』の箱をゆっくりと開いて、手を繋ぎました。

すると、箱の中から『黄金のフェネック』が飛び出して、アリアとステラの前に座りました。
優しい眼差しで二人を見上げると、その体が光り輝きだしました。
気がつくとアリアとステラの前に、半透明の美しい女性が立っていました。
ステラがおもわず「母上様」と驚いて言いました。
半透明の女性が母上様にあまりにも似ていたからです。
アリアが「女神ガイア様ですか?」と尋ねました。
美しい女性は、頷いてアリアとステラに「二人の愛の絆は本物でしたね。二人ともよく試練に立ち向かってくれました。
ありがとう!礼を言います。
さあ~アリア!あなたの想いを言の葉に変えてください」と美しい声で言われました。
アリアも、もうひとりの母上様が目の前にいるような、暖かい気持ちになって、迷いも不安も断ち切って「ハイ!」と答えてステラの手をギュッと握り、宇宙(ソラ)を仰ぎ見ました。
『コスモス・リバース!(Cosmos・Rebirth!)』と頭にうかんだ再生の呪文をアリアは叫びました。
すると、『光の卵』からオーロラのような光があふれ出しました。
アリアとステラのお互いを想い合う【愛の光】のエネルギーがとき放たれて、飛び散っていきます。
そして、宇宙(ソラ)にオーロラの橋がかかりました。
女神ガイアが、そのオーロラの橋を駆け上がって行きました。しばらく駆け上がったところで、アリアとステラを振り返ってウィンクをすると、女神様の身体が輝いて光になって、オーロラの架け橋を、いろんな場所の精霊樹に渡していったのでした。
そうして、できたオーロラのネットワークを通じて、光の輝きが宇宙の全てを、包み込んで行きました。

それはそれは、美しく素晴らしい瞬間でした。

しかし、アリアとステラは全てのエネルギーを使い果たして、静かに、ゆっくりと、消えていきました。
同時に、地球を包み込むように宇宙の中心の『ブラフマン』が渦巻いて、完全なる地母神ガイアの意識体が復活されました。
「アリアとステラの愛の記憶」は、地球の人々の記憶を元に戻していきました。
愛のエネルギーは生きる喜びに満ちあふれていて、全ての生命(いのち)に宿っていきました。
こうして、地球は元の美しい青く輝く星へと戻っていったのでした。

余談ですが、のちにオペラの情熱の独唱曲が「アリア」と呼ばれるようになったのは、アリアの活躍が人々の魂の記憶として受け継がれていって、この時の記憶にそっとふれたからかもしれませんね。




エピローグ『現在』



「起こしてしまったかな」
ブランケットをかけられて目覚めた私の前に、少し照れた笑顔の彼が立っていた。
夢の中で、出会った彼だった。

核戦争は起こらず、アリアの『コスモス・リバース』で、世界線が変わり、戦争のない平和な世界がそこにはあった。
でも、その記憶を覚えているのは私ひとり。

私は、全てを思い出した。
私の名前は『アリア』

この世界線では、体は健康で大学院を卒業して画家をしながら、国立博物館の専門職員(キュレーター)の仕事をしている。

6年前に、古い地層から遺跡が発見された。 発掘団の主任研究員をしている『ステラ教授』と出会い、恋におちた。

アリアとステラは、一緒に青い空を見上げ、手を合わせて「この平和な世界が永遠に続きますように」と祈り続けた。 窓辺に吊るしたサンキャッチャーがキラキラ光り、リビングの白い壁紙を虹色に彩っていた。

世界は今日も光に満ちている。

おしまい




登場人物&特殊な名称一覧


アリア: Aria(独)
[空気]主人公王女

ステラ:Stella(伊)
[星]準主役の王子

リヒト:Licht(独)
[光]光を司る意識体

ドゥンケルハイト:Dunkelheit(独)
[闇]闇を司る意識体

エスペランサ:Esperanza (es)
[希望]光の神リヒトに仕える赤い鳥 

ティア:Theia (英)
[涙]月の意識体 
 出典:46億年前に地球に衝突した原始惑星の名前。その時の地球の破片と合体して月が誕生したと言う説。

アンジェ: Ange
[造語]魔鏡に少女の心の中の妖精

ゼロ:Zero
[名詞]ドゥンケルハイトの息子


・特殊な名称

意識体:Consciousness being
[造語]万物に宿る魂の様な存在

ブラフマン:Brahman(英語)
[宇宙の中心の存在]
 『始まりと終わりの存在』出典:インド哲学における宇宙の根理から。

ガイア神:GOD of GAIA (英語)
[地球の地母神]
 出典:ガイア理論仮説より。生命が惑星との相互関係により、生存に適した環境を維持する為の自己制御システム。





[あとがきとして]

私は光と闇をテーマに、心の幸せ生命の大切さ平和への願いをこめて、絵や詩や物語として表現してきました。
今回「アリアの世界」として、より皆様に私の絵の世界観を知って頂きたく物語を創作致しましたのでお読みくだされば幸いです。

YOKO NAKAMURA

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